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自治体DXの事例をご紹介!必要な理由から推進計画・メリット・課題も解説

自治体のDXは、デジタル技術の活用により自治体業務の効率化と住民サービスの向上を図る取り組みです。
少子高齢化による人口減少や職員不足、住民ニーズの多様化、コロナ禍で顕在化した働き方の変化などを背景に、自治体DX推進の必要性が高まっています。
本記事では、自治体DXが求められる理由や総務省の推進計画、自治体DXのメリット・課題、さらには全国の先進事例と成功のポイント、すぐに始められるDX施策例までを詳しく解説します。
自治体DXとは

自治体DXとは、市区町村や都道府県など地方自治体がデジタル技術を活用して業務効率化と住民サービスの質向上を実現しようとする取り組みのことです。
具体的には、行政手続きのオンライン化、AI活用による業務自動化、テレワークの推進、データに基づく政策立案などが挙げられます。
単なるIT化ではなく業務プロセスや組織文化を根本から見直し、少ない人員でも質の高い行政サービスを提供し続けることを目指す改革が自治体DXの特徴です。
自治体DXが求められる理由

人口減少と財政制約の中で行政サービスを維持し質を高めるには、DX推進が不可欠です。
以下ではこれらの理由を詳しく見ていきます。
- 職員不足
- 住民のニーズの多様化
- 業務量増加
- コロナ禍以降の働き方の変化
職員不足
少子高齢化により自治体職員の人手不足が深刻化しています。平成6年をピークに自治体職員数は2021年時点で約48万人減少しており、一方で対応すべき行政業務は年々増加しています。
総務省の資料でも、業務が増え続ける中で職員数が減少すれば行政サービスの維持が困難になると予測されています。DXにより人が対応すべき業務を絞り込み、ITで代行できる作業は自動化して、生産性を向上させる必要があります。
住民のニーズの多様化
住民の価値観やニーズが多様化し、行政サービスにも迅速で便利な対応が求められています。スマートフォンから24時間手続き可能なオンラインサービスや、災害時のリアルタイム情報提供、多言語対応、高齢者や障がい者でも使いやすいサービスなどが必要です。
行政は「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を掲げ、DXによって多様な住民に寄り添うサービス提供を進めることが求められています。
業務量増加
行政手続きやサービスが高度化・複雑化し、自治体の業務量は増え続けています。複数部署にまたがる煩雑な手続きや紙書類への依存が職員の時間を奪い、長時間労働の一因ともなっています。
多くの自治体で日々の業務に追われ、「考える仕事」や「住民に寄り添う対応」にリソースを割けない状況です。DXにより業務プロセスを見直し、AI・RPAで定型業務を自動化することで、職員が本来注力すべき住民対応や企画立案に専念できる環境づくりが急務です。
※RPAとは:ロボティック・プロセス・オートメーションのこと
コロナ禍以降の働き方の変化
新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、テレワークやリモート会議の導入が一気に進みました。感染リスクに備え、非常事態でも行政機能を維持するため在宅勤務環境の整備が重要となり、多様な働き方の定着が図られています。
実際、緊急事態宣言下では「職員出勤7割削減」などの目標が掲げられ、これを契機にテレワーク環境の整備が加速しました。対面手続きの回避やハンコ文化の見直しも進み、コロナ禍は行政のデジタル化を後押しする転機となりました。
「自治体DX推進計画」とは

自治体DXを後押しする国の方針として、総務省は2020年12月に「自治体DX推進計画」を策定しました。
この計画は「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」をビジョンに掲げ、自治体DX推進の指針となる7つの重点項目を示しています。
情報システムの標準化・共通化
自治体ごとに異なる基幹業務システムを全国で統一・標準化する取組です。住民記録、戸籍、税、福祉など主要20業務について共通仕様のシステムを整備し、ガバメントクラウドへの移行が進められています。
全国1741自治体が独自システムを持つ「自治体システム1700個問題」の解消も目指しており、共同運用によって開発・保守コストの重複を削減します。システム標準化により自治体間の情報連携が容易となり、近隣自治体と連携した広域施策にも迅速に対応できる環境を整えます。
マイナンバーカードの普及
国民一人ひとりに割り当てられたマイナンバーカードの普及促進も重要な柱です。マイナンバーカードを利用すれば対面に限らずオンラインでも安全・確実に本人確認や認証が行えるため、行政手続きのオンライン・デジタル化が加速します。
健康保険証、銀行口座開設、転居手続、税申告、救急搬送時の本人確認など幅広い利用シーンでマイナカードを活用し、利便性を向上させる狙いです。将来的にはマイナンバーカード機能をスマートフォンに搭載し、カードを持ち歩かなくても各種手続きが可能になるよう取り組んでいます。
行政手続のオンライン化
住民が役所へ行かずに自宅等から手続きできるよう、行政手続のオンライン化が推進されています。これまで紙の書類や窓口提出が必要だった子育て・介護関連の申請、税申告なども、マイナポータル等を通じてオンライン完結できるようにします。
また、窓口で何度も住所氏名を書かずに済む「書かないワンストップ窓口」を導入し、1回の入力で複数手続きが完了する仕組みを整備します。さらに庁舎窓口だけでなく郵便局・公民館・コンビニ・オンラインなど身近な場所から手続可能にする「オムニチャネル化」により、便利で身近な行政サービスを実現します。
AI・RPAの利用促進
AIやRPAを行政業務に積極活用する取り組みです。AIチャットボットによる住民問い合わせの自動応答、AI文書解析による膨大な書類の分類・検索、RPAによる定型作業の自動化などで職員の業務効率化を図ります。
例えば、AIが議事録を要約したり、RPAが夜間に定例データ処理を行うことで、人手では時間がかかる作業を迅速かつ正確に処理することが可能です。これによりヒューマンエラーの減少やデータに基づく新サービス創出など、行政の質向上にもつながります。
テレワーク推進
職員が時間や場所を選ばず働けるよう、テレワーク環境の整備も重点項目に挙げられています。ハンコ文化の見直しや電子決裁導入により在宅勤務を阻害していた要因を解消し、庁内ネットワークへの安全なリモート接続やオンライン会議システムの導入を進めます。
職員それぞれのライフスタイルに応じた柔軟な働き方を実現するとともに、非常時の事業継続(BCP)の観点からもテレワーク普及は重要です。庁内外でシームレスに業務できる環境を構築し、災害時やパンデミック時でも行政サービスを継続できる体制づくりを目指します。
セキュリティ対策の強化
行政の高度なデジタル化に伴い、サイバーセキュリティ対策の強化も不可欠です。自治体ごとのバラバラなセキュリティ対策を改め、統一的な基準で情報資産を保護するため、自治体情報セキュリティクラウドの整備やゼロトラストネットワークの導入が進められています。
また、職員向けの情報セキュリティ研修や内部不正監視体制の強化など、人為的ミスやサイバー攻撃に備える組織的取り組みも推進されています。高まるデジタル依存に対応してセキュリティを万全にすることが、自治体DXの土台として重視されるポイントです。
自治体DXのメリット

自治体がDXに取り組むことで、職員と住民の双方に様々なメリットが生まれます。行政内部の生産性向上だけでなく、住民満足度の向上や財政健全化など多方面に効果があります。
どのようなメリットがあるのかを確認していきましょう。
- 自治体職員の業務効率化
- 住民サービスの質の向上
- コスト最適化・ミス防止・自治体間連携の促進
自治体職員の業務効率化
紙の手作業をデジタル化することで、職員の業務効率は飛躍的に向上します。電子申請システムにより書類の受理やチェックが自動化され、関係部署との情報共有も瞬時に可能となります。
例えば、東京都文京区ではマイナンバーカード交付業務に予約管理システムを導入し、毎日2時間かかっていた集計作業が15分に短縮されました。このようにDX導入で手間や時間が削減され、職員の残業時間も減少します。定型業務から解放された職員は、より付加価値の高い企画立案や住民対応に時間を充てることができます。
住民サービスの質の向上
行政サービスのオンライン化により、時間や場所に制約されず住民がサービスを利用できるようになります。平日日中に窓口へ行けない働く世代でも、夜間や休日にスマホから手続き可能となり利便性が向上します。
実際、オンライン住民票申請の導入で窓口の混雑が大幅に緩和された自治体もあります。またSNSやチャットツールの活用で市民とのコミュニケーションが円滑になり、要望の把握から施策への反映までスピード感が増します。結果としてサービス品質の向上と住民の満足度・信頼性アップにつながります。
コスト最適化・ミス防止・自治体間連携の促進
DXによる業務効率化は行政コストの削減にも直結します。作業のデジタル化で人手や時間を節約でき、短期的に初期投資はあっても長期的に財政負担を軽減できます。また、手作業の電子化やRPA導入でヒューマンエラーを減らし、ミス防止にもつながります。
システム標準化によって近隣自治体との共同運用や相互連携が容易となり、広域的な課題に迅速に対応できる環境が整います。さらに、効率化で削減されたコストを新たなサービス開発や改善に再投資することで、市民満足度の向上も図れます。
自治体DXのよくある課題

メリットが多い自治体DXですが、その推進過程では共通する課題にも直面します。多くの自治体で似た課題が報告されており、事前に対応策を検討しておくことが重要です。
ここでは、自治体DXでよく挙がる問題点として、業務プロセスの複雑さ、職員のITリテラシー不足、既存システムのブラックボックス化の3点を解説します。とはいえ、これらの課題を乗り越えてこそDX成功への道が拓けます。
- 業務プロセスが複雑
- 職員のITリテラシー不足
- 既存システムのブラックボックス化
業務プロセスが複雑
多くの自治体では長年の慣行や規則の積み重ねで業務手順が複雑化しています。複数部署にまたがる申請フローや紙主体の事務手続、法令・条例による厳格なルールの多さがDX推進の障壁となります。
また、前例踏襲を重んじる組織文化が根強い場合、現場で業務改善への抵抗感が生じることも課題です。法律上紙での保存が義務付けられた業務もあり、デジタル化を阻む要因となっています。DXを進めるには、単なるシステム導入でなく業務プロセス自体を根本から見直すBPRが不可欠です。
職員のITリテラシー不足
職員のデジタルスキルのばらつきやITへの苦手意識もDX推進の大きな課題です。年代による習熟度の差、新しいシステムへの抵抗感、研修機会不足などが要因で、デジタル技術を使いこなせる人材が限られています。
若手職員に限定せず本人手上げ式でDX推進員を広く募り任命した自治体もあり、組織的にデジタル人材を育成していく取り組みが重要です。職員の意識改革と継続的なIT研修によりスキル底上げを図り、全庁的にDXを進められる体制づくりが求められます。
既存システムのブラックボックス化
長年使い続けてきた既存システムが複雑化し、担当職員ですら全容を把握できないケースもあります。過去の仕様書散逸や度重なるカスタマイズ、担当者の異動によるノウハウ断絶が原因で、システムがブラックボックス化しているのです。
この状態では新たなシステムとの連携や移行が困難となり、DX推進の足かせとなります。老朽システムをこのまま使い続ければ、2025年以降に大きな経済的損失が生じる恐れがあるとも指摘されています。
レガシー刷新や標準化でブラックボックスを解消し、柔軟なシステム環境への移行を進めることが大切です。
自治体DXの先進事例

全国には既に様々な自治体DXの先進事例があり、それぞれ独自の工夫で成果を上げています。先進自治体の成功体験から学べるポイントは多く、自団体に取り入れられるヒントも得られるでしょう。
各自治体の独自の工夫が光る事例ばかりです。以下に組織体制整備やサービス向上などに取り組んだ先進事例を紹介しますので、自団体のDX推進の参考にしてください。
- 愛媛県|総合防災情報システム
- 兵庫県神戸市|デジタル人材育成
- 福井県あわら市|デジタル統括人材の設置
- 島根県江津市|デジタル人材の外部登用
- 愛知県|高齢者が高齢者を支援するDX
- 山形県長井市|スマート自治体を支える人材育成
- 大阪府高槻市|窓口業務のオンライン化
- 愛知県西尾市|LINEで電子申請
- 東京都三鷹市|窓口予約システム導入
- 熊本県熊本市|窓口のデジタル化推進
- 栃木県宇都宮市|電子申請共通システム
- 宮崎県串間市|RPA導入で効率化
- 東京都豊島区|AI文書解析
- 静岡県磐田市|AIによるSNS災害情報分析
- 鳥取県|IoTを使った高齢者見守り
- 宮崎県都城市|LINE問い合わせ対応
愛媛県|総合防災情報システム
南海トラフ地震など大規模災害への備えとして、愛媛県では災害情報を一元的に収集・発信する「総合防災情報システム」を導入しました。NTTデータ関西のクラウド防災ソリューション「EYE-BOUSAI」を活用し、災害時に各機関からの情報をリアルタイムに集約・分析して正確な状況把握を行なっています。
情報整理に要していた時間が大幅短縮され、報道機関や県民への迅速な情報提供が可能となりました。また、人工衛星画像の解析等、新技術も積極的に取り入れ、防災DXにより災害対応力を強化しています。
兵庫県神戸市|デジタル人材育成
政令指定都市の神戸市では、行政DXを支えるデジタル人材の獲得と育成に力を入れています。富士通から専門人材の派遣を受け入れ、スマートシティやクロス産業連携のプロジェクトを共同推進するなど、外部の知見を積極的に活用しているのも特徴です。
また、職員向けにデータ活用研修やハッカソンを開催し、庁内のデジタルスキル底上げを図っています。専門人材と職員が協働することで、行政サービスにデータ駆動型の改革をもたらし、神戸市はデジタル先進都市としての地位を築いています。
福井県あわら市|デジタル統括人材の設置
福井県あわら市では、DXを統括するリーダーとして民間からの人材を起用し、庁内体制を強化しました。2022年には包括連携協定を結んだ企業から専門人材を「DX推進補佐官」として受け入れ、市のChief Digital Officer(CDO)に就任しています。
あわら市では職員の手上げ方式によるDX推進員の任命などデジタル人材の育成も進めており、庁内外のデジタル推進体制を整えている状況です。専門知見を持つ統括人材のリーダーシップの下、市全体でDXを推進し、スマートシティ実現を目指しています。
島根県江津市|デジタル人材の外部登用
島根県江津市では、デジタル人材を外部から登用して行政DXを推進しました。江津市は自治体間連携の「島根県・市町村DX推進共同組織」に参画し、専門的なIT知識を持つ人材を市町村間でシェアする仕組みを構築しています。
また、民間企業出身者をCIO補佐官として任用し、情報政策の立案やプロジェクト推進の中核に据えました。外部人材の知見と内部職員の協働により、行政サービスの質向上と業務効率化の両面でDXの成果を上げています。
愛知県|高齢者が高齢者を支援するDX
愛知県では、高齢者のデジタルデバイド解消に向け「高齢者デジタルサポーター」事業を展開しています。シニア世代の中からITに明るい人を講習で育成し、デジタルサポーターとして登録するという取り組みを行っています。デジタルに不慣れな高齢者に対し、同じ高齢世代のサポーターがマンツーマンでスマホ操作などを支援するという画期的なものです。
この事業は2021年度に開始され、県が市町村から推薦を受けた候補者に無償講習を行い「高齢者デジタルサポーター」として認定する仕組みです。高齢者が高齢者を助けるDXの取り組みは、安心してデジタルの恩恵を受けられる環境づくりに寄与しています。
山形県長井市|スマート自治体を支える人材育成
人口2.5万人ほどの山形県長井市では、街全体をDX化する「スマートシティ長井」という取り組みが進められています。長井市は政府の地方創生人材支援制度を用いて採用した人材をデジタル推進室長に任命し、職員のデジタルスキル向上。
このリーダーの下で職員のデジタル研修や市内高校生向けプログラミング講座など人材育成を積極展開し、庁内外にデジタル人材を増やしています。官民連携で次世代を担うDX人材を育てることで、将来にわたりスマート自治体を支える基盤づくりに成功しています。
大阪府高槻市|窓口業務のオンライン化
大阪府高槻市では、子育て支援など窓口業務の混雑と職員残業が課題でした。そこで2010年に各種申請の電子申請サービスを導入し、2020年には窓口予約システムも稼働させました。
これにより窓口での待ち時間短縮に成功し、特に子育て関連部署では予約制にしたことで職員の残業時間削減にもつながっています。高槻市の取り組みは市民と職員の両方にメリットがある施策として効果を上げ、現在は予約システムを他部署にも広げてさらなる効率化を目指しています。
愛知県西尾市|LINEで電子申請
愛知県西尾市では、市役所へ来庁できない人のために手続きを電子申請で完結できるようにしました。2022年に自治体向け電子申請サービスとLINE公式アカウントを連携させ、「Nishioスマート申請」を開始しています。
Nishioスマート申請では、市のLINE公式アカウントを活用することで、メールアドレスやパスワードの登録なしで電子申請サービスを利用できる仕組みを構築しました。導入後、市のLINE公式アカウントの友だち登録者数は10万人を超え、電子申請の利用件数も同規模自治体平均の約10倍に達し、職員の事務負担も大きく軽減されました。
東京都三鷹市|窓口予約システム導入
東京都三鷹市では、住民票やマイナンバー関連の各種手続に窓口予約システムを導入しました。事前に来庁日時をオンライン予約できるようにし、窓口の待ち時間を大幅に削減するとともにピーク時の混雑緩和に成功しています。
また、職員側も予約情報を基に必要書類を事前準備できるため、1人当たりの対応時間短縮と1日に応対できる件数増加にもつながりました。窓口サービスの予約制は住民の時間的負担を減らすだけでなく、職員の業務効率アップや残業抑制にもつながる取り組みとも言えるでしょう。
熊本県熊本市|窓口のデジタル化推進
熊本市では区役所等の窓口にタブレット端末を設置し、申請案内を画面表示や暗号化QRコードで提供する「届出ナビ」システムを構築しました。また、市税のクレジットカード納付や各種手数料のキャッシュレス決済を導入し、会計窓口での現金処理を削減しています。
住民は待ち時間が減って便利になり、職員も対面対応の負荷軽減と正確な案内の実現につながっています。
栃木県宇都宮市|電子申請共通システム
栃木県宇都宮市では、県内自治体で共同利用できる電子申請共通システムを導入し、オンライン手続の窓口を一本化しました。住民は市公式サイトから共通の電子申請フォームにアクセスでき、パソコンやスマホで届け出を完了できます。
このシステムは栃木県が県内市町に提供しているもので、自治体ごとの開発負担を軽減しつつ市民の利便性を高めています。県内どの自治体でも同じ画面・手順で申請できるため、転出入時にも手続きが円滑に行えます。宇都宮市の事例は、自治体間でシステムを共有することで効率化とサービス向上を両立した好例です。
宮崎県串間市|RPA導入で効率化
宮崎県串間市では、職員の手作業を代替するRPAツールを導入し業務効率化を進めました。エクセル台帳からのデータ抽出・集計作業や、複数システムへの二重入力などをソフトウェアロボットが自動処理しています。
これにより週に数時間かかっていた単純作業が数分で完了するようになり、職員は空いた時間を窓口対応や企画業務に充てられるようになりました。人的ミスの減少や処理スピード向上など、RPA導入は小規模自治体においても大きな効果を発揮しています。
東京都豊島区|AI文書解析
東京23区の豊島区では、職員の文書管理業務を支援するためAIによる文書解析技術を導入しました。区役所内の大量の文書・記録をAIでデータベース化・分類し、過去の議事録や申請書などを検索・分析しやすくしています。
また、AIテキスト分析サービスの活用で問い合わせやアンケートなど大量のテキストデータを自動可視化し、組織の課題発見に役立てる取り組みも行っています。これらにより関連文書を素早く抽出できるため住民への回答スピードが向上し、蓄積した文書から知見を得て行政サービスの改善に繋げています。
静岡県磐田市|AIによるSNS災害情報分析
静岡県磐田市では、SNS上の災害関連投稿をAIで分析し、防災対応に役立てています。2023年4月にAI活用の「SNS災害情報分析システム」を導入し、Twitterなどから寄せられる災害状況の投稿を自動収集・解析しています。
AIと専任チームがデマ情報を排除して信頼性の高い情報のみを抽出し、位置情報を付加して関係部門や市民向けに提供する仕組みです。これにより夜間の豪雨時など現地確認が困難な場合でも、リアルタイムで被害状況を把握し即応体制を取れるようになりました。
鳥取県|IoTを使った高齢者見守り
鳥取県では、県営住宅に住む独居高齢者の見守りにIoT技術を活用しています。2021年度から対象住宅に人感センサー付き端末とウェアラブル端末を設置し、高齢者の生活リズムをモニタリングするサービスを導入しました。
異常を検知すると自動的に見守り事業者へ通報が行われ、速やかな安否確認につながります。IoTと従来の福祉サービスを組み合わせることで、高齢者が孤立しない地域づくりにDXを役立てた事例です。
宮崎県都城市|LINE問い合わせ対応
宮崎県都城市では、市民からの問い合わせ対応にLINEチャットを導入し、電話応対の効率化を図りました。公式LINEアカウントで1対1のチャット相談を受け付ける仕組みを整え、移住相談などに活用しています。
電話では市役所開庁時間に連絡する必要があり担当者と利用者のタイミング合わせが課題でしたが、チャットなら好きな時間に質問・回答ができ行き違いを解消しました。履歴が残るため庁内の情報共有も容易で、都城市のLINE活用は全国から注目され他自治体でもチャットボット導入が進んでいます。
先進事例から学ぶ自治体DXを成功させるポイント

上記のような先進事例には、自治体DXを成功させるための共通点が見られます。
先進事例から得られるDX推進の重要ポイントを以下に整理します。
- 住民の利便性と職員の効率化を両立する
- カスタマイズ性の高いシステムを選定する
- BPR(業務プロセス改革)をセットで進める
- 庁内連携と職員のデジタルスキル向上
- 地域特性に合わせたDX戦略を立てる
住民の利便性と職員の効率化を両立する
自治体DXでは、住民サービス向上と職員業務効率化の双方を同時に追求することが重要です。オンライン化により住民の利便性を高めつつ、内部では業務プロセスの見直しやシステム化で職員の負担軽減を図る必要があります。
住民と職員の両者にメリットがある施策はDX推進への理解と協力を得やすく、持続的な改革につながります。実際、高槻市はオンライン予約システム導入で市民の待ち時間削減と職員の残業削減を両立させました。
カスタマイズ性の高いシステムを選定する
DX推進では導入するシステムの選択も重要です。操作が簡単で職員自身が設定変更できるような柔軟なシステムを選べば、業務内容の変化にも素早く対応できます。
また、市民をはじめ利用者にとって直感的に使いやすいかも検討しましょう。現場のニーズに合わせてカスタマイズ可能なサービスを選定し、利用者目線に立ったツールを導入することが成功の鍵となります。
BPR(業務プロセス改革)をセットで進める
単に新しいITツールを導入するだけでは真のDXは実現しません。業務プロセス自体のムダや非効率を洗い出し、抜本的に見直すBPR(業務改革)とデジタル技術の活用を両輪で進めることが重要です。
現行の手続きをそのまま電子化するのではなく、手順やルール自体を簡素化・標準化することで、DXの効果を最大限に引き出せます。まず業務フローを可視化し、重複作業や無駄な手順を洗い出してからデジタル化に着手することで、スムーズかつ効果的な改革が可能になります。
庁内連携と職員のデジタルスキル向上
DXは情報政策部門だけで完結するものではありません。各課の職員がデジタル技術を活用できる素地を作ることが大切です。
組織横断的なプロジェクトチームを編成し、庁内の連携を強化するとともに、OA研修や外部講習への派遣などで職員全体のITリテラシーを底上げしましょう。誰もがデジタルを使いこなす職場文化を醸成することで、組織全体でDXを推進できる体制が整います。
地域特性に合わせたDX戦略を立てる
自治体DXのアプローチは地域の規模・特性によって異なります。都市部と過疎地では住民ニーズもインフラ状況も違うため、自治体の実情に合ったDX戦略を策定することが重要です。画一的なシステム導入にとどまらず、地域の課題や強みに寄り添った柔軟な施策を取り入れることで、住民に真に役立つサービスを提供できるでしょう。
例えば、人口密集都市ではスマートシティや防災情報高度化に注力し、過疎地域ではオンライン医療・教育やモビリティ確保を優先するなど、地域特性に応じたDX展開が成功のポイントです。
自治体でいますぐ取り組めるDXの例

最後に、大規模な投資を伴わず比較的短期間で着手できる自治体DXの取り組み例を紹介します。小規模な自治体でもすぐ導入可能なDX施策は数多くあります。
例えば、AI電話サービスや窓口手続きのデジタル化など、すぐに実践できる取り組みが各地で進んでいます。身近な業務のデジタル化から始め、小さな成功体験を積み重ねることがDX推進の弾みになります。ぜひ出来ることから着手してみましょう。
- AI電話サービス
- 窓口手続きの簡易デジタル化
- ペーパーレス化・テレワーク
- 庁内業務のRPA化
- スマート人材の育成
AI電話サービス
市役所にかかってくる電話対応をAIが自動応答するサービスです。音声認識と自然言語処理を用いて住民からの問い合わせ内容を理解し、自動で回答します。24時間365日対応可能となるため、職員は電話応対に追われることなく他業務に集中できます。
実際、京都市ではAI音声応答サービス「Graffer Call」を全区役所・支所に導入し、開庁時間外でも自動音声やSMSで行政情報を案内する仕組みを構築しました。開庁時間や手続方法などの定型的な質問はAIに任せ、複雑な案件のみ職員が対応することで業務効率化とサービス向上を両立できます。
窓口手続きの簡易デジタル化
住民票の写し交付など窓口での簡易な手続きをデジタル化する取り組みです。窓口に設置したタブレットで申請内容を入力してもらい、内容確認用の暗号化QRコードを発行して手続案内を効率化する事例があります。
熊本市の「届出ナビ」では紙の記入をなくしタブレット操作で案内を完了させ、説明の正確性も向上しました。こうしたツールの導入により窓口職員が住民の記入内容を逐一確認する手間が減り、待ち時間短縮と案内の質向上につながります。このように窓口手続の一部デジタル化は短期間で効果が実感できるDXのひとつです。
ペーパーレス化・テレワーク
会議資料や起案書の電子化、オンライン決裁の導入によりペーパーレス化を進めます。紙とハンコ文化を脱却し、文書は電子回覧とする運用に切り替える自治体が増えています。
また、業務システムへの遠隔アクセス環境を整備してテレワークを推進することも重要です。電子会議やテレワークの導入は職員の働き方改革と災害時のBCP強化にもつながります。
例えば、熊本県庁では電子決裁の導入により年間数十万枚の紙を削減しました。こうした足元の見直しはDXの第一歩であり、継続的な改善が求められます。
庁内業務のRPA化
職員が行っている定例業務の一部をRPAで自動化する取り組みです。例えば、毎朝決まった時刻に行うデータの集計・転記作業や、複数システムにまたがる同一情報の入力作業など、ルール化できる処理はRPAに任せられます。
RPA導入により1件あたり数分かかっていた処理が数秒で完了するようになるケースも多く報告されています。ある自治体ではRPA活用で年間1200時間分の業務を自動化したとの試算もあります。単調作業を機械に任せてヒューマンエラーを防止し、削減した時間を住民サービスに充当する好循環を生み出しましょう。
スマート人材の育成
DXを持続させるには人材育成も今すぐ取り組めるテーマです。庁内でデジタル推進リーダーとなる職員を選抜し、専門研修への派遣や先進自治体への視察など学習機会を提供しましょう。
また、地域のIT企業や大学と連携して職員が最新技術に触れる機会を作る自治体も増えています。こうした「スマート人材」を確保・育成し自治体の内製力を高めることで、DXの波に乗り遅れない組織体制を築けます。
人流データの活用事例

- 北海道北広島市|観光ポテンシャル拡大に向けた国内外来訪者の動線可視化
- 徳島県徳島市|阿波おどり来訪者分析で中心市街地活性化を加速
- 大阪府広域連携プロジェクト|交通動線データで「移動がスムーズなまちづくり」を推進
北海道北広島市|観光ポテンシャル拡大に向けた国内外来訪者の動線可視化
北海道北広島市では2023年完成の「エスコンフィールドHOKKAIDO」を核に、市内観光を拡充する目的でDatawise Area Marketer国内居住者版とインバウンド版を導入しました。国籍別の来訪傾向や周遊率を時系列で比較し、ボールパーク開業前後の人流変化を把握しています。
分析により札幌・函館との往来が多い一方、市内を素通りする訪日客も多いことが判明しました。この結果を受け、市は看板の多言語化や新たな周遊ルート整備を検討し、スポーツ観戦と地元観光を組み合わせたプロモーションで消費拡大を目指しています。
徳島県徳島市|阿波おどり来訪者分析で中心市街地活性化を加速
徳島市は阿波おどりなどの催事来訪者と中心市街地活性化を目的にDatawise Area Marketerを採用し、手動カウントだった来訪調査をデジタル化しました。性別・年代別の動向や回遊パターンを即時に把握でき、EBPMに基づく施策立案が可能になっています。
導入により他自治体が3年要する活性化基本計画を1年で策定し、施策精度を大幅に向上させました。若年層が集まるエリア特定や時間帯別人流の分析結果を基に広告配置と公共空間の再配置を検討し、職員異動後も直感的に操作できる点が継続活用の決め手となっています。
大阪府広域連携プロジェクト|交通動線データで「移動がスムーズなまちづくり」を推進
大阪府岸和田市は府内47市町村と企業が参加するOSPFの一環として、人の移動最適化を狙う「移動がスムーズなまちづくりプロジェクト」を実施。Datawise Area Marketerで来訪元と目的地を詳細に可視化し、広域交通ネットワークの課題を洗い出しました。
可視化データは道路計画や施設配置の最適化、隣接自治体との経済循環促進に活用され、コロナ禍でも現地調査を補完してスマートモビリティ計画を前進させました。今後はAI混雑予測と組み合わせ、公共交通ダイヤ調整にも応用する方針です。
人流分析ならDatawise Area Marketer
Datawise Area Marketerは、NTTドコモが保有するスマートフォン位置情報を匿名統計化し、性別・年齢層・居住地などの属性を地図上に重ねて表示できる人流解析プラットフォームです。
ボタンひとつで対象エリアの滞在人口や来訪元、さらに次の移動先まで把握できるため、分析作業がスムーズに進みます。ダッシュボードは視覚的なレイアウトで、CSV出力や過去データとの比較もワンクリックで完了するため、初めての方でもすぐに操作を習得できるでしょう。
NAVITIME経由の訪日旅行者データと連携し、国籍別の動線や滞在時間を詳細に分析可能となります。売上実績と掛け合わせれば潜在需要をシミュレーションできるため、キャンペーン効果の検証や出店計画の精度向上に役立ちます。
まとめ
人口減少が進むなかでも質の高い行政サービスを提供し続けるため、自治体DXは避けて通れない取り組みです。職員の働き方改革と住民利便性向上という双方の目的を持ち、段階的な導入や人材育成、使いやすいツール選定などポイントを押さえて進めることが成功の鍵となります。
デジタル技術はあくまで手段であり、DXの目的は住民の幸福度向上と行政の持続性確保にあります。その本質を見失わず、できるところから着実にデジタル化を進めていきましょう。一つひとつの施策の積み重ねが、将来の持続可能な行政サービスにつながっていくはずです。






